HANDSケニア事務所は、3年間にわたる幼児の栄養改善プロジェクト、平成30年度外務省NGO連携無償資金協力による「ケニア共和国ケリチョー郡ECDEセンターを中心としたコミュニティによる幼児栄養改善事業」の期間延長の後、今その終了を2か月後(7月中旬)に控えています。とはいえ、これまで共に歩んできたケリチョー郡の幼稚園31校の日々の経験に耳を傾けそこから学ぶことを止めてしまったわけではありません。プロジェクトで推進してきた幼稚園での栄養改善活動の持続発展に向けた試みの一つを第3回(最終回)としてご紹介します。
↑事業地でよく目にする風景:メイズ(トウモロコシ)畑
(第1回、第2回の記事はHANDSのホームページ、フェイスブックでご覧になれます。)
第1回はこちらから→ https://www.hands.or.jp/kenya20220501/
第2回はこちらから→ https://www.hands.or.jp/kenya20220511/
「Chepkosa Legacy Recipe(チェプコサ レガシー レシピ)」。これが新しい給食レシピの名前です。チェプコサ幼稚園の経験が活かされたレシピであることとHANDSのプロジェクトを長く記憶に留めてほしい、という願いが込められています。
このレシピが誕生したのは、プロジェクト対象幼稚園の調理師さんと、各幼稚園でプロジェクト活動を黒子として支えてきた地域保健ボランティアさんたちを対象にして実施してきた研修「栄養と衛生」の最終回でした。
HANDSの職員が、チェプコサ幼稚園の経験をHANDSのケーススタディとして研修参加者に提示しました。チェプコサ幼稚園からの参加者たちに「失敗例」というレッテルを貼らず、給食が継続できなくなることはどの幼稚園でもあり得るという危機意識を喚起した上で、チェプコサ幼稚園の経験から学んだことを活かし、皆で園児たちに喜ばれるレシピを開発しようと呼びかけました。5月に予定されている「農業と栄養」研修の最終回で、幼稚園を監督する小学校長や運営委員たちにこのレシピを正式に認めてもらい導入するというのが最終目標です。
この新しいレシピには二つの働きがあります。サツマイモやキャッサバの粉を混ぜることでメイズ(トウモロコシ)やその他の雑穀(ミレットやソーガム)への依存を軽減し、給食が中断することをできるだけ防ぐという働きと栄養面での付加価値です。給食の財政管理で成功している幼稚園も少なからずあり、そんな幼稚園は栄養面での一層の強化を第一の目標にします。
研修では、2つのレシピを試しました。サツマイモの粉とキャッサバの粉をそれぞれ通常の雑穀(メイズ、ミレット、ソーガム)に混ぜた粥です。第一グループの試食の結果は、サツマイモの粉入りの粥は水っぽく、期待していた甘みも感じられないという評価でした。一方キャッサバの粉を混ぜたものはとろみがあり満足感はあるが、一口目に感じられるキャッサバの独特な臭いを気にした人が多くいました。(写真1)
↑(写真1)キャッサバの粉入り粥をタバイタ幼稚園の地域保健ボランティアに取り分けるHANDS職員
「園児の少なくとも50%が好んで食する」というのを目安に、これらの点を改善するアイデアが参加者から出されました。「園児たちにはキャッサバの粉が入った新しいレシピだとは敢えて言わない。言わなければすぐに慣れて喜んで食べるようになる」という意見には全員が笑いながら大きくうなずいていました。第2グループでは、サツマイモの粉の量を増やしたとろ、キャッサバと同じようなとろみが出て色も甘みも改善され香りも加わり、キャッサバの粉入りの粥より評価は高くなりました。(写真2)
↑(写真2)サツマイモの粉入り粥を評価するタバイタ幼稚園の調理師
こうしてサツマイモの粉入り、キャッサバの粉入りという2つのレシピが誕生しました。調理師さんは新学期を前に、幼稚園教員に新しいレシピの開発秘話を伝えること、そして地域保健ボランティアさんは地域住民に、干ばつに強いサツマイモとキャッサバの植え付け時期を逃さないように活用方法と共に家庭菜園での栽培を普及するというのを課題とし、研修最終回を終えました。HANDSは、チェプコサ幼稚園で給食が再開された日に駆けつけ、園児たちへの配食をボランティアでさせてもらうことにしています。
ケニアの広い地域で今年3月から4月にかけて、ケニアの主食であるメイズ、さらにミレットやソーガムと言った穀類を食べつくす夜盗虫という害虫が長引く乾季のために大発生しました。HANDSの事業地であるケリチョー郡も例外ではありませんでした。政府の対応に期待すると共に、私たちは幼児の健康を守るため家庭で、そして地域でできることを後押ししていきたいと思っています。(終わり)